今月初めに新曲「Deep」を公開し、新作『Family Ties』も発表したベテランMC、Fat Joe(ファット・ジョー)であるが、今回はそんな彼と彼の妹分のハードなフィーメールMC、Remy Ma(レミー・マ)がラジオ番組に出演し故Big Pun(ビッグ・パン)のあの有名なラインを披露している動画を紹介したい。
時代が変わり、ヒップホップの音やアーティストのスタイル、扱うトピックも多様化し、もはや90年代のように「ヒップホップイコールタフで男臭い音楽」という認識は少なくなってきている。でも、やっぱりハードなビートにヒネリのあるリリックが乗ってこそヒップホップだよね、タイトなライミングでスピットしまくってこそMCだよね、というヒップホップファンは未だに多いはずだ。
故Big Pun (ビッグ・パン)はこんなヒップホップファンの欲求を満足させてくれるMCの一人であろう。未だにベストリリシストとしてその名を挙げるヘッズも多い。そして彼の残した最も有名なパンチラインであり、おそらくヒップホップ史に残るベストパンチラインの一つがこれだろう。
Dead in the middle of Little Italy,little did we know
that we riddled two middlemen who didn’t do diddly
このラインは年に発表された同郷(ブロンクス)で兄貴分ファット・ジョーとの楽曲『Twinz(Deep Cover 98)』の中の一節だ。
実はこの一節、ビッグ・パンは当初曲の中に入れるつもりはなかったらしい。なんでも彼は普段からよくこのラインのようなtongue twister(早口言葉)的なフレーズを口にしていたようで、このラインも最初はその類のものだったようだ。それを耳にしたファット・ジョーは「あれはこの世で一番ハードなシットだ」とパンにこの曲のリリックにすることを勧めたが、彼は「アホか?あれは単なるお遊びだから。(あんなのを曲のリリックにしたら)連中に笑われるわ、マジで言ってんのか」と取り合わず、ジョーは懸命に説得したのだという。
今回紹介する動画では、ジョーが前半を披露し、この超有名パンチラインの部分をレミーが披露している。
NYのラッパーらしく、普段は強気なアティテュードでおなじみの彼女だが、今回は、おそれ多いけどやらせていただきますといった謙虚さと緊張が入り混じったような表情をしているのが印象的だ。そして、その様子を師匠のようなまなざしで身守るジョーの表情もたまらない。
無事成功し、それを見たホストは「鳥肌たっちゃったよ~」と一言。
しかし、意外にもファット・ジョー的にはこの曲のキモはそこではないようで、
「みんなこのラインのことばっか話題にするけどオレのお気に入りはここなんだよなあ」と挙げた個所は自身の、
Creep with me,as I cruise in my Beamer
All the kids in the ghetto call me Don Cartagena…
で始まる4小節あたり。
オチもついて曲の世界観とは裏腹に和やかな雰囲気の中動画は終わる。
以前と比べてだいぶ丸くなりつつも、スキルは健在の二人、これからも目が離せない。
パン本人によるラップの威力はこちらで確認した頂きたい。↓
新曲は凝ったPVにも注目。ちなみにこの曲を聴いていて筆者が連想したのはNasのストーリーテリングの才能がさく裂した一曲「Undying Love」だった。
しかし、あの曲同様、衝撃のラストシーンと思いきやさらに一転、意外なオチに。ジョーの表情が見どころだ。
ちなみに、この曲はMobb Deepのあの名曲で故Prodigy(プロディジー)が披露したあのラインが引用されていたり、ディレクションがあのIrv Gotti(アーヴ・ゴッティ)だったりと、NYヒップホップに長年親しんできた人間には嬉しいポイントがいくつもあるのも見逃せ(聞き逃せ)ない。