フロウと声質、ヒップホップの楽曲においてこの二つは最重要要素であると言ったら賛同してくれる人は多いだろうと思う。ビートにラップを乗せるというある意味究極的にシンプルな音楽スタイルだからこそ、上で挙げた二つは曲の良し悪しを決める上で大きな判断基準となる要素だ。英語を母国語とはしない我々にとっては、リリックの意味や細かなニュアンスを100%理解することは難しい以上なおさらフロウは大きな要素であることは間違いないだろう。
最近はいわゆる”triplet flow”(「三連符フロウ」)に代表されるように、あるフロウが流行るとみんながそれを採り入れるようになっている。確かに、かつてもその年代に代表されるフロウがあり、また、「地域固有の特徴的なフロウ」に関しては今よりもずっとはっきりとしていたように感じる。この曲は90年代後半ぽいねとか、ヒューストンぽいフロウとか、そういったものは一昔前もあった。それでも、その中でも各ラッパーはオリジナルのフロウを持ってこそプロップスを得られて、だれかフロウをマネするのはワックなラッパーのやることだという風潮があった。翻って、現在は、流行りのフロウを採り入れることこそクールという感じになっている。価値観の変化から、個々のラッパーにフロウのユニークさを求めるのは難しくなったのかもしれない。
そんな流れの中にあっても、変わったフロウの曲やユニークなフロウのラッパーを発見することこそヒップホップを聴く醍醐味の一つであることに変わりはないだろう。
そこでこのサイトではシリーズで、耳について離れない中毒性のあるフロウを披露している曲・ラッパーを1曲ずつ紹介していきたい。
その第一弾となる今回、真っ先に思い浮かんだのはこの曲だ。これは、2015年に発表されたJay Rock名義の曲なのだが、「feat.Black Hippy」というクレジットからもわかるように、Kendrick LamarとAB soul、そしてSchool boy Qが参加しており、実質的にはBlack Hippy(2008年に上記4名で結成されたグループ)の曲となっている。さすが気心の知れた仲間同士息もぴったり、肩の力を抜いて楽しんでいる様子が伝わってくる。
4人がマイクを回すこの曲、なんといっても一度聴いたら耳について離れないユニークなフロウが最大の聴きどころだ。4人は、皆それぞれソロでも活躍しているスターなので、当然それぞれ自分のスタイルが確立されている。声質も、間の取り方も、リリックの世界観も独自のものを持っており、それはこの曲でも垣間見ることができる。それでいて、この曲では意図的に各々のフロウを合わせていることから、統一性とそれぞれの個性が絶妙のバランスで調和した一曲となっている。また、控え目ながらも印象的なトラックに、不穏さも感じさせる映像世界と4人のどこかユーモラスなパフォーマンスが相まって、この曲を一層中毒性の高いものにしている。
ちなみにこの曲のフロウ、今回紹介した動画のコメント欄では「Obama Flow」と称されている。バラク・オバマ氏の語り口に似ているからという理由らしいが、どうだろうか。たった一曲だけでフロウに名称がついてしまうほどインパクトを持ったこの曲をチェックして頂きたい。